上告人は、被上告人に対し、遺留分減殺を原因とする不動産の所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。被上告人は、第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。
第1審判決は、上記口頭弁論に関与していない裁判官が、民訴法254条1項により、判決書の原本に基づかないで上告人の請求を全部認容する判決を言い渡した。上告人は、判決には民訴法249条1項に違反する判決手続の違法があり、これは再審事由(同法338条1項1号)にも当たるなどとして、取り消し及び改めて上告人の請求を全部認容する旨の判決を求めて控訴をした。原審は、判決手続の違法があるものの、上告人の請求は全部認容されているから、控訴の利益を認めることができず、本件控訴は不適法であるとして却下した。
最高裁判所は、第1審判決は、民事訴訟の根幹に関わる重大な違法があるというべき、として、訴訟記録により直ちに判明する事柄であり、再審事由に該当するものであるから、上記の第1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできない。よって全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができると解するのが相当であるとして、論旨の理由を認め、原判決を破棄し差し戻した。
■参考:最高裁判所|事件が一人の裁判官により審理された後、口頭弁論に関与していない裁判官が判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合において、全部勝訴した原告が控訴をすることの許否(令和5年3月24日・第二小法廷)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91938