『論語』(孔子の言葉)に、「三畏(さんい)」がある。すなわち、「君子には三つの畏れ(はばかり)がある。天命を畏れ、大人(たいじん=有徳の先輩)を畏れ、聖人のことばを畏れる」と(金谷治訳注『論語』、岩波文庫)。
さて、X社(建築工具製造業)は、2年前無事に事業承継を済ませた。創業者(会長)と後継者(社長、会長の長男)が約80人の社員を率いて、安定した経営を継続している。ただ会長には一つ大きな不安があった。社長は学生時代から将来の後継者として主に技術を修得し、卒業後X社へ入った後は技術責任者として力を発揮してきた。会長の不安は、社長の自信の強さと独善性であった。
例えば、必要と思われる重大な相談を会長にしない、創業時に会長の部下として共に苦労した取締役の意見を軽視する、会長が業界団体の幹部を紹介しても尊敬の心を持たない、等である。会長は創業以来、努力とは関係なく数々の苦難と幸運に遭遇した。大手企業から突然締め出されたり、反対に同業者や銀行の思わぬ支援に感動したりした。
天の配剤というが、結局世の中の運不運の多くはバランスしていると考えている。信頼出来る先輩を尊重し、過去の偉人に学ぶ態度が絶対必要と信じている。つまり、いつも畏れる対象を抱いている事が大切と思っている。