X社(化学品製造業)の社長(65歳)に事業承継計画策定を奨めたが、なかなかその気にならず、「常務(長男40歳)はまだその器に育っていない」と提案を拒否していた。「切実に必要になってからでは遅いです。常務は技術も経営管理能力も十分です」と話すが、社長の反応は「真面目だが、人を導く力量はまだ駄目だ」と取りあわない。親子間の事業承継は、成り行き任せで無計画に行われる場合と、反対に後継者の条件を厳しく考え過ぎて社長交代が遅れる場合の両極端がよくある。
四書五経(大学・論語・孟子等)の『大学』の中に、こんな言葉がある。「人其の子の悪を知る莫(な)く、其の苗の碩(おおい)なるを知る莫しと」(親はつい愛情に溺れて、自分の子の欠点に気づかない。また(農夫は)自分の田の苗はよその田よりも劣ると誤認するものである)。
では、事業承継の準備はいつから始めれば良いか。偶然の出来事の機会を捉えたり、経営環境の変化等(例えば、工場の海外進出、企業系列の再編等)の機会を捉えたりする他はない。X社の場合は、社長がケガをして2ヶ月休んだことで常務の存在感が強くなり、社長も真剣に事業承継の準備を検討する気になった。準備のタイミングは、事業承継が切実になる一定期間前に着手する決断が大切だ。