Aの長男・原告Xが二男・被告Yに対し、Aが死亡13日前に行った信託契約が意思無能力または公序良俗違反により無効である等の主張に基づき、同信託に基づき行われた不動産の所有権移転登記と信託登記の各抹消登記手続き等の請求をした事案で東京地裁は▽本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産を信託財産とした部分は、遺留分制度を潜脱する意図での信託制度利用であり公序良俗に反し無効▽信託契約による信託財産の移転は形式的な所有権移転にすぎないため、信託においては受益権を遺留分減殺の対象とすべし―と判決した。30年9月12日付。
親族間などで行われる信託は民事信託とも呼ばれここ数年急増。当事者間の紛争も増加傾向にある。本判決も民事信託で生じた紛争に係る。争点は(1)受託者の意思能力の存否(2)信託契約に関する公序良俗違反の有無(3)遺留分減殺請求の対象が信託財産か受益権か。(3)については、信託財産を対象とすると考える信託設定行為説と、受益権を対象とすると考える受益権説で考え方が分かれている。両説では遺留分減殺請求の相手方(受託者か受益者か)、請求が可能となる時期(信託設定時か受益権取得時か)などで相違がある。本判決は受益権説に立って判断されたものだ。