寺田寅彦著『柿の種』(岩波文庫)に、こんな文がある。「大道で手品をやっているところを、そのうしろの家の二階から見下ろしていると、あんまり品玉がよく見え過ぎて、ばからしくて見ていられないそうである。感心して見物している人たちのほうが不思議に見えるそうである。」
X店(高級婦人服)の店舗レイアウト・陳列・接客技法の改善を依頼された事がある。比較的古いビルの1階にあるが、店舗の構えが堂々として、店頭看板やショーウィンドも店格の高さをイメージするものだった。店主の悩みは、客層ターゲット(裕福な中高年女性)と実態がかけ離れている事だ。店舗診断により、次のような問題点が見つかった。(1)ショーウィンドは立派な照明設備を使って、高級品を展示している。しかし、店内から見れば汚れや清掃の不備に気づく(2)高級品を陳列しているが、店主と店員の身なりのセンスが見映えしない(3)店舗演出が店頭付近に集中し、店奥が貧相なイメージになっている。お客は、いつも店舗の正面からのみ観察しているわけではない。目立たない裏側の整理整頓や清掃等も店頭の高級感とバランスさせる必要がある。表の演出が立派であればあるほど、店内に入った時に見える裏の備えもバランスさせなければならない。