抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が、担保不動産競売により売却された。賃借権は滞納処分による差し押さえのあとに設定され、占有者は競売手続きの開始前から賃借権により建物を使用または収益を得ていた。この場合、占有者は民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たるかどうかが争われた事案で最高裁第三小法廷は、当たると解するのが相当だとし、抗告人による建物引き渡し命令の申し立てを却下した。
最高裁は同項について、抵当権者に対抗できない賃借権は、民事執行法に基づく競売手続きにおける売却によって効力を失い(同法59条2項)、賃借権により建物の使用または収益をする占有者は、買い受け人に対し建物の引き渡し義務を負うことを前提として、即時の建物の引き渡しを求められる占有者の不利益を緩和し、両者の利害の調整を図るため、一定の明確な要件を満たす占有者に限り、買い受け時から6カ月を経過するまでは引き渡し義務の履行を猶予するものと解説。
この場合、滞納処分手続きは民事執行法に基づく競売手続きと同視はできず、1項1号の文言に照らしても、「競売手続の開始」は滞納処分による差し押さえを含むと解することができないからだと説示した。
■参考:最高裁判所|不動産引渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(平成30年4月17日・第三小法廷・結果/棄却)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87683