人が成長する要因に、すぐれた人に憧(あこが)れるという心理がある。つい、自然に見習いたくなる心境である。
孔子の言葉に、「賢(けん)を見ては(斉)ひとしからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省(かえり)みる」(すぐれた人を見れば同じようになろうと思い、つまらない人を見たときにはわれとわが心に反省することだ)がある(金谷治訳注『論語』岩波文庫)。どこの会社でも、部下の教育指導は思い通りにならないものである。管理者のみではなく、経営者であっても指示命令を徹底させることは容易ではない。上司(経営者も含めて)と部下の関係がうまく行っている会社を観察すると、部下の上司への信頼度が高いことだ(将来はあの人のようになりたい)。信頼度が低ければ、あの人のようになりたいと思わないものだ。
例えば、上司がどんなに熱心に接客指導をしても、お客様に感謝の気持ちや誠意を持っていなければ、部下は上司に敬服しないであろう。また、経営者が人間修養を目指す場合にも、人を見習うという心掛けは大変重要である。そもそも、人間修養とは、賢人を見つけて折あるごとに近づいて人格向上を図ることである。さらに、「ツキ」(好運)があるとは、立派な人を見習って、日々精進する姿勢に依るであろう。