いわゆる花押を書くことが民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われている事案で最高裁第二小法廷は、 印章による押印と同視できず、押印の要件を満たさないとし、満たすとした原審の判断を覆した。その上で、原判決中、被上告人の請求に関する部分を破棄、この部分につき本件を福岡高裁に差し戻した。
死亡した父親が残した土地の相続をめぐり3人の子供が争っている。父親は生前、遺言書を自書したが、氏名の下に花押を書いただけで、印章による押印はなかった。この土地について被上告人は、主位的に遺言書による遺言によって亡き父から遺贈を受けたと主張、予備的に亡き父との間で死因贈与契約を締結したと主張、他の2人に対し所有権に基づき所有権移転登記手続きを求めている。
原審は遺言を有効とし、被上告人は土地の遺贈を受けたとして被上告人の請求を認容した。最高裁は、968条1項の趣旨は遺言者の同一性と真意を確保するとともに、重要な文書では作成者が署名した上、名の下に押印することによって文書の作成を完結させるという慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあるとした判例を踏まえ、わが国では花押を書くことで文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するとは認め難いとした。
■参考:最高裁判所|遺言書真正確認等,求償金等請求事件(平成28年6月3日・最高裁判所第二小法廷)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85930