上告人(一般職の国家公務員・経済産業省)は上司および担当職員に対し、自らの性同一性障害であり、女性の服装での勤務や女性トイレの使用等についての要望を伝えた。その後、上告人についての説明会が開かれ、本件執務階とその上下の階以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇を実施することとされた。上告人は3年後、国家公務員法86条により、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等の行政措置を要求したところ、人事院は認められない旨の判定をした。
原審は、全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を果たすための対応として、違法とは言えないとした。
最高裁は、本件説明会において明確に異を唱える職員がいなかったこと、トラブルも想定し難く、特段の配慮の必要性が確認されていないことから、上告人に対し不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらないとし、職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであり、職員の能率の発揮及び増進の見地からも著しく妥当性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである、とした。なお、裁判官5人全員の補足意見が合わせて述べられた。
■参考:最高裁判所|性同一性障害の一般職の国家公務員が国家公務員法86条の行政措置の要求を認められないとした人事院の判定が違法とされた事例(令和5年7月11日・第三小法廷)|
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191