「石橋を叩いて渡る」と「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のように、ことわざには正反対のものがある。倹約についても、同様の異なる考え方がある。
企業活動も、一般的には倹約が堅実性に貢献している。しかし、倹約は万能ではなく、時に活動を委縮させたり、発展を阻害したりする原因になる事もある。本コラムに度々登場した二宮金次郎の哲学は倹約精神が中核であるが、その時々の状況によっては、倹約より拡大を提唱する。
すなわち、凶年の時は「米1勺ずつを減ずれば、1日に3勺、1月に9合、1年に1斗余、百人にて11石、万人にて1100石」の倹約励行で良い。しかし、平年には「1反に1斗ずつ取り増せば1町に1石、10町に10石、100町に100石、万町に万石なり」と富国の道は、農を勧めて米穀を取り増すにありと言う(『二宮翁夜話』岩波文庫参照)。
これは事業の典型的拡大戦略である。企業が経費節減を叫ぶ時は、一般に事業不振である。経費のムダを省く事はいつも必要であるが、留意すべきは売上不振に際して、人員を減らす時である。人員減少は人材の質低下になる事もある。不振の時はやむを得ないが、平常時は人件費節約よりも人材育成や人員投資に力を入れる方が、企業安定や発展に結び付くのではなかろうか。