ほとんどの人がこんな経験があるだろう。例えば、夢中で仕事をしていて、気がついたら日が暮れていた。或いは、仕事中空腹に気づいて時計を見るといつもの食事時刻を大幅に過ぎていた。
人が何かに打ち込んでいる時は、周囲の状況が見えないものである。本稿のテーマは、世相の変化に気づかず、又は気づいていても何も対応しないで長年働いている場合である。
X社は、70年以上の歴史を誇る和菓子の製造販売チェーンである。商圏内では、これまで味・見映え・品揃え等の評判が高く、長年にわたり安定した経営を続けてきた。創業者の息子A社長は経営方針を素直に引き継ぎ、店舗デザインや商品の質・形状等をほとんど変えなかった。
ところが、15年前A社長の長男Bが大学を卒業し、「こんな古い商売を継ぎたくない」と発言して、経営陣は大きなショックを受けた。理由を聞くと、「皆さんも承知の通り世の中は日々変転している。うちの商品は、明日お客から見向きもされなくなるかもしれない」と。
この親子の偉い所は、社長と息子の言い争いにならなかった事である。A社長も、「実は、私も自店の菓子は旨くても食い飽きた。お客も同じだろう」と。その後、店舗デザインや商品の改造を進めて、現在は3代目Bが経営を継続している。