初めて訪問した会社の応接室で、「倹約の習慣」と書かれた額に出会った。社長と名刺交換した後、額に書かれた言葉を話題にしたところ、「これが我が社のモットーで、会社が4代続いている根源です」と。
新入社員には中々理解されないが、経営者や管理者の行動や考え方を見ているうちに納得されると言う。ここで「倹約の習慣」とは、単にお金や物を節約するだけではない。社員として励むべき仕事や勉学等を効率良く行って会社経営に貢献し、健康と人間関係を良好に保って各自が平穏な生活を送る事である。倹約の習慣が身に付けば、会社も安定して社員の生活も豊かになる。
同じような考え方は、井原西鶴が著した『日本永代蔵』に、金持ちになる長者丸という妙薬の処方が出てくる(堀切実訳注『日本永代蔵』、角川ソフィア文庫を参照)。すなわち、早起き5両、家業20両、夜なべ8両、倹約10両、達者7両の計50両の薬を粉にして朝晩飲めば必ず金持ちになる、と。倹約が習慣になれば、物惜しみする単にケチケチするだけの人間性ではなく、健康で早起きして仕事に励み、さらに世の中の変化流転に注意して事業の工夫にも精を出すようになる。会社ぐるみで倹約の習慣を身に付ければ、家庭も会社も長くずっと繁盛する事が当たり前である。