婚姻費用分担をめぐって夫婦が争い、妻が調停の申し立てをした。その2カ月後に離婚調停が成立。調停には財産分与に関する合意はされず、いわゆる清算条項も定められなかった。
婚姻費用の調停は、離婚調停成立と同じ日に不成立で終了したが、婚姻費用調停申し立ての時に婚姻費用分担審判の申し立てがあったとみなされ(家事事件手続法272条4項)審判に移行した。妻(抗告人)が民法760条に基づく婚姻費用分担請求権に基づき、離婚時までの婚姻費用の分担を求める申し立てをしたのに対し、原審は離婚により消滅し不適法として却下。最高裁第一小法廷は原決定を破棄、札幌高裁に差し戻した。
最高裁は、婚姻費用分担審判の申し立て後に当事者が離婚したとしても、婚姻費用分担請求権は消滅しないと結論。理由として760条について▽婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅する理由は何ら存在せず、家裁は過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定できる▽夫婦の資産、収入等一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定できる▽当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求ができる場合でも、これは異ならない―と説示した。
■参考:最高裁判所|婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても,これにより婚姻費用分担請求権は消滅しない(婚姻費用分担審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件・令和2年1月23日・第一小法廷・破棄差戻)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89187