中国古典『荀子』に、「君は舟、庶民は水である。水は舟を載せるが、同時に又舟を転覆させもする」という言葉がある(藤井専英著「荀子(上)の王制篇」明治書院、新釈漢文大系参照)。君(皇帝)と庶民の関係を、企業と消費者(取引者)のそれに置き換えてみると意義深い。
毎年のようにマスコミで話題になるが、企業が商品品質や取引方法等を偽って不当な利益を得る為に、消費者等に多大な損害を与える事件が発生する。事件が公然になれば、当該企業の経営は暗礁に乗り上げて、最悪経営破綻する事もある。
不正の態様は様々であるが、共通したその原因としては、自社の経営基盤が消費者や取引相手によって存立している事を忘れているのである。消費者がいつも自社の思い通りになると勘違いしている。舟と水の関係に譬えれば、水は舟を載せる為だけにあると考え、水の機嫌を損ねれば舟を転覆させる事を知らない。企業経営者は、企業のコンプライアンス(法令順守・企業倫理等と訳す)が大事であると気軽に言う。しかし、大抵の人は真剣に心配していない。実は企業を監視する眼は近年益々厳しくなっており、その数は企業の内外に何百・何千、いや何万・何百万以上と非常に多い事を再認識すべきである。