井原西鶴著『世間胸算用』に、蛸を売り物にする魚屋が登場する(角川書店刊、前田金五郎訳注参照)。日頃は蛸の足を1本切って売り、切り取った足は煮売屋に売って儲けていた。誰も気づかなかった。ある年末に足を2本ずつ切って6本にして売っていたら遂に露見し、「足切り八助」という評判が立ち暮らしの種が上がったりになった。
デフレ経済が長く続いたためか、国民全体が値上げに対する抵抗感が強くなっている。原材料や人件費等のコストが上がっても、商品価格の値上げが難しい。その苦肉の策が、価格を据え置いたまま1品当りの分量を減らしたりして、収益を増やそうとしている。蛸1匹の値段をそのままに、足を1本か2本切る行為と類似する。
さて、商品価格を据え置きで分量を減らしたりする行為は、正当な価格表明と言えるだろうか。当然、事業者は「分量調整による価格据え置きだ」と言うかもしれない。本当は値上げをしたいが、消費者の需要を落としたくないのであろう。冒頭に紹介した「足切り八助」は蛸の実物を見せながら売っているものの、足が6本又は7本の蛸とは表明していない。足を1本又は2本ずつ切って蛸1匹の値段で売る行為(現代流に言えば、不当表示)は、不当な儲けと言われても仕方がないだろう。