Weeklyコラム 商売の効率性とゆとり

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吉村昭著『その人の想い出』(河出書房新社)の中に、紡績工場を経営していた父親のこんな教訓がある。「父は創業時代、借金をしたこともあったが、必ず返済日の一日前に金を持って行ったという。また注文を受けた製品は、納入日の午前中に注文主のもとに搬入した。午後は翌日にぞくしている、という考えからであった」、と。

代金決済のほとんどが訪問によって行われていた時代は、態度や言葉によって人や企業の性格が如実に表れたものである。集金人が来ると必ず値引を求める人がいたり、必ず一定の割引をして帰る人がいたりした。越中富山の置き薬屋が先用後利の理念で繁盛したのも、単に後払いが歓迎されただけではなく、精算集金に来ると景品等のおまけを付けたからであろう。二宮尊徳(金次郎)は「富貴貧賤の解(分かれ目)」の中で、富貴になるコツは、やるべき辛い事(勤苦と言う)を本来より多目にやり、やっても良い楽な事(好楽と言う)を本来より少なめにする心掛けと教える。貧賤はこの逆をすれば必ずやって来る。

今後、商売上の各種しくみは高度な技術でシステム化され、益々効率性が追求される。反面、人は融通性(心のゆとり)を求めて、人としての思い遣りや心の触れ合いを今以上に大事にする事もまた確実である。