中国古典の『中庸』に(以下、金谷治訳注・岩波文庫による)、「凡そ天下国家を為(おさ)むるに、九経あり」とある。九経とは九つの原則で、その一つに「百工を来(ねぎら)うなり」(もろもろの工人を温かくねぎらうと、財物や日用器物がたくさん作られて満ち足りる)がある。2千年以上前の文献で、働く人(工人)を大切にする事が天下国家を安泰にする九原則の一つだという。
最近、30社以上の経営者と個々に面談をして気づいた事がある。因果関係が反対かもしれないが、業績が良好で経営理念やビジョンが明確な事業所は従業者の処遇が優秀である事が多い(ここでは給与水準が高いだけでなく、定年や継続雇用制度が従業者から歓迎されていたり、福利厚生等が整備されていたりする)。特に印象に残ったのは、経営者が従業者の労働環境や生活環境に強い関心を持つ会社は、勤労意欲や人間性豊かな人が多く、職場の定着率が高い事だ。人は自分に関心を持ってくれる人や組織を重視し、利害からだけでなく、心から貢献したいと願う。
因みに、冒頭の九原則の中には、他に「庶民を慈しむなり」(庶民をいつくしむと、万民すべてが君のためによく働く)、「遠人を柔ぐるなり」(遠い異国の人びとをやわらげると、四方の国ぐにが帰服する)等がある。