「錦の衣を着てその上から薄ものをかける」という言葉がある(出典は『中庸』であるが、原典は『詩経』にある。金谷治訳注『大学・中庸』岩波文庫参照)。錦は薄ものをすかしてこそ美しいというものである。
メーカー10社の社長と個々に聞き取り調査をする機会を持った。全てが独自の商品(技術)を持った会社で、小規模ながら地域では存在感のある企業である。社長から聞く話は日本の製造技術や商品の優秀さであり、日本経済の土台は中小製造業と思ったほどだ。さらに驚嘆したのは社長の人間性であった。社内外の人間関係を上手に治めて行く原理原則を修得しているように見えた。正に、外見は平凡な人物であっても(冒頭の「薄ものをかける」)内面に錦の衣を着けている。当然、役員・従業員・取引先等から信頼・尊敬されているだろう。
信頼・尊敬される社長の条件としては、例えば次のような事柄が挙げられる。(1)謙虚で、部下や取引先等に思い遣りがある(2)従業員を大切に扱い、研修や修養に金や時間を惜しまない(3)役割分担を守り、各立場の行動を尊重する(4)優秀な従業員の貢献を称えると同時に、下積み従業員の処遇も忘れない(5)従業員が避けたいような職務(苦情処理等)を積極的に引受ける。