Weeklyコラム 下手は上手の手本

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Weeklyコラム 下手は上手の手本

世阿弥著「風姿花伝」に、「上手は下手の手本、下手は上手の手本なりと工夫すべし」とある(野上豊一郎・西尾実校訂、岩波文庫)。知識経験や技能等が劣る者(下手)が、より上位の者(上手)を見習うべきは当然であるが、その反対もまた必要である。理由の一つは反面教師のような場合で、上手が下手の者を見て、同じ失敗をしないように気をつけることである。もう一つは上手の者は達者な技能に慢心して、弱点を意識することが難しいからである。X社(不動産管理業)のAとBは同期入社の中堅社員。A営業課長は決断力に優れ、苦情処理や対外交渉に自信があった。B主任は穏やかな性格で、交渉事は苦手だったがパソコン技能や顧客管理・文書管理等は得意だった。AはBを営業力の無い部下のように軽蔑し、Bの優れた部分を無視していた。そんな時、Bが中心になって顧客情報システムを構築したが、Aは事務の合理化に反対して退職してしまった。やがてBは総務課長になったが、Aは転職後も我意を押し通して職場を転々としている。Aは主流の仕事(営業)は上手であったが、それを支えるBが得意とする事務能力が下手であったと言える。Aの問題点は、仕事の全てにおいて上手と慢心して、下手の部分を学ぶ姿勢に欠けていたことにある。