契約書の末尾に、「本契約に定めの無い事項は誠意をもって協議する」等とよく書いてある。一方で、ビジネスは駆け引き(極端な場合はだまし合い)によって成り立つ厳しい世界と言われる。いったい、ビジネスにおける「誠意をもって商う」とは、どのような状態を指しているのか。
日々の商売は、平穏無事に進んでいるうちは誰もが誠意をもって仕事をしていると推定される。しかし、マスコミに取り上げられるような不正行為が見つかると、警察や社会から追及されて、時には倒産することもある。このような時、当該経営者は「まさか、こんな大きな迷惑を掛けるとは思わなかった。誠意をもって償う」等と言う。
800年程前に書かれた『正法眼蔵随聞記』(懐奘編、和辻哲郎校訂、岩波文庫)にも、「世人多く善事を作(な)す時は人に知られんと思ひ、悪事を作す時は人に知れじと思ふに依て」とある。善事は他人になかなか知られないが、密かな悪事は他人にすぐ知られて、その罰があるものだと言う。ビジネスにおける誠意とは、簡単に言うと大体次のような行為と考える。(1)虚偽(うそ)は絶対に言わない(2)法令は当然、商慣習・社会慣習に従った言行をする(3)日頃社会秩序を守る人間性を修養し、相手から尊重されることを目指す。