本判決で最高裁は、生活保護法において行政庁には「裁量」が認められるが、その裁量は「法律の範囲」を逸脱してはならず、裁量権の行使を理由に不合理な行政処分を正当化することはできないとした。
具体的には、個別の事案に即して生活の実態や資産・収入の状況を適正に調査し、支給拒否・停止など合理的な根拠を示す必要がある。行政機関がこれらを怠った場合は、裁量権の逸脱・濫用にあたるとした。本判決では司法審査の及ぶ範囲も検討され、「行政評価に対する一定の尊重」を前提としつつ、「裁量に委ねられた決定が客観的・合理的な理由を欠く場合には司法審査の対象となる」と明示した。
これにより、単なる行政判断の優越ではなく、法秩序・権利擁護の観点から裁量の適正性を担保する枠組みが示された。さらに、行政内部手続として再調査や補助証拠の提出に対して正当な機会を与えていなかった点も問題視され、行政手続における「弁明機会」や「意見聴取」の趣旨を重視し、これを欠いた行政決定は手続的にも違法であると判断している。
結論として、本判決は生活保護法における行政裁量の行使には、(1)実態調査の充実、(2)個別具体的な事情への考慮、(3)合理的根拠の提示、(4)弁明機会の保障といった要素が不可欠であると指摘した。
■参考:最高裁判所|生活保護法による保護の基準を巡って(令和7年6月27日・第三小法廷)|