本件は、被上告人が勤務中に運賃1,150円を着服し、さらに勤務中に電子たばこを使用したことを理由に懲戒免職処分を受け、その後、退職手当約1,211万円の全額不支給処分を受けたことに対し、これらの処分の取消しを求めたものである。
原審である大阪高等裁判所は、懲戒免職処分は適法としつつも、退職手当の全額不支給処分については、被上告人の在職期間や非違行為の程度等を考慮し、裁量権の逸脱・濫用に当たるとしてその取消しを認めた。
しかし、最高裁は、退職手当支給制限処分に関する規定が管理者に裁量を認めていることを前提に、当該裁量が社会観念上著しく妥当性を欠く場合に限り違法となるとした。そして、本件においては、被上告人が職務上取り扱う公金を着服したことが重大な非違行為であり、運賃の適正な取扱いが強く要請されるバス運転手の職務の性質上、信頼を大きく損なうものであると評価した。また、電子たばこの使用の事情も考慮し、非違行為発覚後の被上告人の対応も誠実さを欠くものであったと指摘した。
よって、退職手当の全額不支給処分が裁量権の逸脱・濫用に当たるとはいえず、その結果、原判決のうち退職手当不支給処分の取消しを認めた部分を破棄し、被上告人の控訴を棄却する判決を言い渡した。
■参考:最高裁判所|自動車運送事業のバス運転手が運賃の着服等を理由とする懲戒免職処分に伴って受けた一般の退職手当等不支給処分が裁量権の範囲を逸脱し違法とした原審の判断に違法があるとされた事例(令和7年4月17日・第一小法廷)|
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=94011