吉田兼好の『徒然草』に、こんな場面がある。木登りの名人が人を指図して高い木の先を伐らせた際は何も注意しないで、下りる時にもう軒の高さぐらいになってから注意したという。その理由は、「目が回り、枝が折れそうな高い所では、自分がこわがって大事をとっているから、こちらから何にもいうには及ばない。過ちはもうこれは大丈夫といったようなやさしい気のゆるむ所になってから、きっとするものだ」(古谷義徳『徒然草読本』講談社学術文庫)
X社(空調機器の開発・製造)はバブル経済崩壊後に本業が停滞し、事業転換を図った。優秀な技術者A氏をスカウトし、業績は急回復を遂げた。経営幹部とA氏(及び部下5人)が寝食を忘れて開発に励んだ成果だった。ところが、経営に余裕が生まれると経営幹部が経営権をめぐって争い、A氏が退職してしまった。結果、商品開発が停滞して、X社は忽ち破綻した。
一般に、高い山登りは、上りは安全に上れても、下りがより危険になると言われている。戦争や勝負事も、前半は圧倒的に勝利していても、やがて緊張が無くなって油断が生まれ破れる事が珍しくない。難しい事柄は、最初は緊張しているので旨くいく可能性があるが、最後の詰めを怠ると大変危険である。