Weeklyコラム 商人の運不運

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井原西鶴著『日本永代蔵』(堀切実訳注、角川ソフィア文庫)の成功譚を読むと、単に才覚や努力だけではない思わぬ好運によって大金持ちになった話がいくつも出てくる。例えば、小さな家業を営む与三右衛門という人は、大雨で村の川を大きな黒い物が流れて行くのを追いかけ、松の木に引っかかったところを見ると固まった漆(ウルシ)であった。それを売ったところ長者になったという。

また、桔梗屋という貧しい染物屋の夫婦は、最初は福の神を祀(まつ)っていた。しかし、その甲斐が無かったので、貧乏神を祀ってみた。すると、貧乏神がこれを恩に感じて、夢の中で「紅(くれない)」というお告げを与えた。これによって、「紅染(もみぞめ)」を発明して大金持ちになったという。このように商人の好運は、偶然の体験や風変わりなアイデア等によって獲得する事もある。不運も偶然の巡り合わせによる事があるかもしれない。しかし、多くの好運の契機は本人の日頃の心掛けや性格等によるのではなかろうか。

『日本永代蔵』に繰り返し出てくるが、譬え好運によって財を成しても油断して乱費したりすると瞬く間に没落してしまうものだ。一度好運を得た人ほど悲惨であろう。因みに、前掲の与三右衛門はやがて驕るようになり、遂に没落してしまうのである。