本件は、被相続人が作成した遺言に基づき上告人が相続登記を行ったことに対し、被上告人らが遺留分減殺請求を行った事案である。上告人は、改正前民法1041条1項に基づき、遺留分権利者に対し価額弁償の意思表示をした。他方、被上告人らは現物返還請求を維持し、価額弁償の申し出に応じた事実はないと主張した。
原審は、上告人に対して各被上告人への代償金の支払を命じるとともに、支払を条件に土地の持分登記移転手続を命じる、いわゆる代替的判断を示した。
最高裁は、改正前1041条の価額弁償制度においては、上告人は価額を弁償する意思表示をしたが、被上告人がこれに応じ、価額弁償請求権を「行使する旨の意思表示」をしたとは認められない。このため、被上告人は依然として「現物返還請求権」と「共有持分権」を有するため、遺産の現物返還義務が存続している。受遺者の意思表示のみでは現物返還義務は消滅せず、遺留分権利者の承諾があって初めて確定的に代償請求権が成立することを確認した。
したがって本件では、被上告人らの承諾がないため、現物返還請求はなお有効であり、原審が本件各持分の価額の支払を命じた部分は破棄を免れないとして、金銭支払義務の変更を命じた。
■参考:最高裁判所| 遺留分権利者から土地の持分の現物返還請求を受けた受遺者に対して当該持分の価額の支払を命じた原審の判断に違法があるとされた事例(令和7年7月10日・第一小法廷)|