「知的財産」という言葉には、大変現代的かつ高度な知識活用のイメージがある。確かに、知的財産権の代表は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権等、法律や官庁で守られた重要な権利である。他にも、音楽・小説・論文・絵画・設計デザイン・営業秘密等、挙げたら切りがない。
これらの共通点は、法律上か否かに関係なく、一定期間権利者が独占するか、又は保持者がずっと内容を隠し続ける事である。知的財産にはかなり曖昧な分野があり、例えば各種商品の調理・技術や茶道・華道・書道・各種芸能等は、商標権や意匠権等で守られている部分と関係者が独占する事で守っている部分がある。
特に、芸能分野は隠して保持する事に価値がある。昔、「能」に関して世阿弥が書いた『風姿花伝』には、「秘すれば花、秘せねば花なるべからず」とある(野上豊一郎、西尾実校訂、岩波文庫参照)。ここで言う「花」とは、芸能上の価値そのものである。このような分野は、従来創始者や親方が権利を独占し、たとえ弟子や従業員であっても建前は隠した。況して、他人が知って使う事は、不正行為くらいに考えた。今後、整備が遅れている芸能・芸術関係の知的財産を始め、著作権や営業秘密の法律的整備を早急に進める必要があろう。