「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」という名言がある(出典:世阿弥著『風姿花伝』、野上豊一郎・西尾実校訂、岩波文庫等参照)。明治42年まで観世家(能楽)に秘蔵されていた『風姿花伝』や茶道・華道等の秘法は、代々一子相伝される特殊なノウハウである。
ここでは、ノウハウの一般的定義に限定せず、仕事に活用出来る知識・技術・情報等だけでなく、芸術や生活に役立つ知恵・コツ等を全て含める。
『風姿花伝』(花伝書ともいう)に依れば、ノウハウを秘する花に譬えればノウハウは秘密(非公開)にしなければならない。例えば、経営コンサルタントの中には研修・講演講師の依頼を選別して無闇に引受けない人がいる。ノウハウに自信を持ち、それを気軽に公開すれば商品を無償(又は廉価)で処分する事と考える。秘密にするから価値が保てるという信念である。
さて、ノウハウは単にその内容を知るだけでは終了にならず、さらに有効性を保ち続ける努力が大切だ。一般にノウハウの効用には期限があるからだ。そこで、他人から仕事上のノウハウを取得・持続する為に買い続ける人もいれば、ノウハウを創出して売り続ける人もいる。この両者は、時の流れによって変化する知識・技術・情報等を価値ある財産として密かに持ち続けるのである。