中国古典『中庸』に、「君子は中庸し、小人は中庸に反す」とある(君子は中庸の徳を守るが、つまらない小人は中庸の価値がわからないでそれにそむくものである。金谷治訳注『大学・中庸』岩波文庫参照)。
会社の上司は、信頼関係と組織を保つ為にも部下を適度に叱ったり注意したりする事が義務である。しかし、その度を越せば逆に信頼関係や組織を壊す。親子・友人・隣人・取引等も同様で、人と人の良好な関係を保つ為には、単に親しむだけが重要ではなく、適度な緊張感を持ったり、時には距離を置いたりする事が有効である。
X社(住宅建設業)では、従業員の定着率悪化に悩んでいた。そこで本来の管理組織以外に、相談員制度を設けて従業員の状況を確実に掴もうとした(全課長が相談員で、従業員をグループ化して観察)。しかし、結果は失敗であった。従業員が困った時、頼るべき上司が曖昧で、その責任体制が崩れた。相談員の言葉に強制力は無かったが、監視されているストレスがあった。相談員から声を掛けられる事は叱責と受け取った。従業員の働き具合や心情を掴む事は必要だが、無闇に監視の目を増やし、無理やり対話を増やす手法は、行き過ぎれば従業員が逃げ出しかねない。親子・友人・隣人等も同様で、何事もほどほどが良い。