従来、個人が開業する時は、資金を貯めてから行動を起こす事が多かった。銀行(公的金融機関)が、売上実績のない個人の開業資金融資に消極的だった事も一因だ。
二宮尊徳(金次郎)の言葉に、「貧者は昨日の為に今日勤め、昨年の為に今年勤む、故に終身苦しんで其功なし、富者は明日の為に今日勤め、来年の為に今年勤め、安楽自在にして、成す事成就せずと云事なし」というものがある(福住正兄筆記、佐々井信太郎校訂『二宮翁夜話』(岩波文庫))。
以上に対しては、資金を貯める前に事業を起こし、その収益によって返済していく方が時流に乗った商売になると言う意見がある。意欲的な事業計画を策定した後、長期間その資金を貯めているうちに、開業の機会を逃してしまうかもしれない。今や、事業計画を策定すると同時に、さて開業資金をどこから借りようかと考える人が多い。勿論、自己資金が一定割合あり、事業計画(返済計画)が良ければ、借入も一手段である。問題は、借入金のみによって安易な開業をする事である。過大な予想売上高、自己能力(知識・技能・営業力・人脈・資金調達力等)判定の誤り、市場将来予測の見込違い等は、やがて資金繰りの破綻になる。人は、借りた金を自分でコツコツ貯めた金ほどには大事にしないものである。