「艱難(かんなん)汝を玉にす」ということわざがある。研修会等ではあまり使えず、「今日の講師はずいぶん古い人間だな」と思われて、耳を塞いでしまう怖れがある。
一方、経営者や管理者からよく聞く言葉に、「今の社員は厳しく注意すると、直ぐ不機嫌になったり、極端な場合は退職したりしてしまう」等がある。職場の規律を不当な自由束縛と誤解して、指示命令を厳格に行うことは労働時間違反等と同じと考えている者もいる。確かに、古い労働慣習の中には社員に屈辱的な言葉で命令し、心身共に辛い労働を強いるような企業が多数存在した。今、このような厳しさは許されない。ここで言う艱難とは、社員への思い遣りとしての厳しさである。職人的な仕事・接客の仕事・物を売る仕事・事務的な仕事等、どの仕事も最初は上に立つ者が本気で教えて初めて身に付くものである。このような教育をしていない上司が多くなっているようだ。
社員に限らず、人は苦労してこそ有益な事柄を身に付けるのではなかろうか。どうぞ、次の文を味読頂きたい。「玉は琢磨によりて器となる。人は練磨によりて仁(=すべての人に思い遣り、いつくしみ)となる。いづれの玉か初より光ある。誰人か初心より利なる」(出典:懐奘編・和辻哲郎校訂『正法眼蔵随聞記』岩波文庫)