『中国笑話集』(駒田信二編訳、ちくま文庫)に、「徒労」と題するこんな話が載っていた。「ある男、道を歩いていて何かにつまずいてころび、やっと起きあがったところ、またすぐころんだ。〈ちぇっ、またころぶんだったら、起きるんじゃなかった〉」
経営者の苦難には、日々の取引紛争や資金繰り難等無数にあるが、最大のものはやはり倒産(経営破綻)である。特に、夢を持って創業した倒産企業経営者の苦悩は、筆舌に尽くすことが出来ないものである。
A氏は大手企業を退職して30歳代でプラスチック加工会社を創業し、高度経済成長の波に乗って発展した。ところが、大手取引先の業績不振によって連鎖倒産した。その後、何度も起業したが倒産し、生活苦や人間不信に苦しんだ。そんな時、手を差し伸べてくれる友人がいて、プラスチックの特殊分野を開拓して新会社を始めた。現在、地方の優秀な安定企業となっている。
A氏の成功の最大要因は、倒産の苦悩(関係者や世間から侮蔑されているような心境)から立ち直った人間的強さである。非常に温厚な風貌でありながら、強い不屈の信念と意志の強さがある。部下の多少の失敗は気にしない寛容さが社員は勿論、銀行や顧客等から好感を持たれている。正に、七転び八起きによる人徳の発揮である。