本件は、静岡県警察に勤務していた警部補A氏が自殺したことをめぐり、妻子である原告が静岡県に対して損害賠償を求めた事案。裁判は、県警察がA氏に対し安全配慮義務を怠ったか否か、特に上司の監督責任についての論点を含んでいる。
警部補A氏は交番長として勤務しつつ、連続窃盗事件の対応、実習生の指導、海外研修準備など多岐にわたる業務を担当していた。その結果、月の時間外勤務時間が117時間超に及ぶこともあり、精神的負荷が蓄積。彼はストレス診断で最低評価を受けたが、これに対する具体的な対策は取られなかった。結果として、A氏はうつ病を発症し、自殺に至った。
最高裁判所は、使用者及びその代理としての上司には、労働者が精神的負荷により健康を損なうことを予見し、その業務内容を調整するなどの措置を講じる義務があるとした。A氏の上司らは、勤務日誌や報告書を通じてA氏の業務状況を把握していたにも関わらず、適切な措置を講じていなかった。この過失がA氏の精神疾患及び自殺を引き起こしたと結論付け、監督責任の不履行を認定した。最高裁は職場における上司の監督責任の重要性と、精神的健康を守る安全配慮義務の履行が求められるべきことを強調している。
■参考:最高裁判所|都道府県警察所属の警部補が自殺において、都道府県が安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うとされた事例(令和7年3月7日・第二小法廷)|
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=93869