Weeklyコラム もう一つの新しい目


かつて、駅や街を歩いている人が旅行者であるか否かは、首にカメラをつるしているかで大抵わかった。しかし、カメラがフィルム式からデジタル、携帯電話と進化してあまり判断の当てにならなくなった。

ところで、道具や器械は進化する事によって、その働きや嗜好性が高まるのであろうか。ラジオ・時計・自動車等も同様であるが、嗜好性に拘る人は、一般に原初の形態(真空管式ラジオ、手巻き時計、マニュアル車等)に魅かれるようだ。嗜好性に拘らない人は、携帯電話で気軽に撮影し、良い写真が1枚くらいあればと思うようだ。これまで筆者がショーウィンドウの飾り付け等を判定する場合は、フィルム式カメラで撮ってその良否を決めていた。携帯電話で撮ったものを見ても、あまり参考にならない。枚数に限りがあるフィルム式と違い、撮影に工夫や慎重さがない。

物理学者の寺田寅彦が「写真機を持って歩くのは、生来持ち合せている二つの目のほかに、もう一つ別な新しい目を持って歩くということになるのである」と述べているが(小宮豊隆編『寺田寅彦随筆集第3巻』岩波文庫)、「もう一つ別な新しい目」を持っていないようだ。しかし、携帯電話による撮影でもフィルム式と同様の観察眼を心掛ければ、新しい目を持つ事になるであろう。